業務改善は“対話”から始まったー「認定こども園 はぜる」のICT導入ストーリー

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    北海道南西部に位置する厚沢部町(あっさぶちょう)にある「認定こども園 はぜる」は、「世界一のこども園をつくる」を目指し、北海道ならではの大自然を感じる園庭と、のびのびと遊べる園舎が特徴のこども園です。こども一人ひとりが主役となって、あそびの中で学ぶことを大切にする保育には、国内はもちろん海外からも注目が集まっており、現在は世界中から「保育園留学」も受け入れています。

    今回は「厚沢部町認定こども園 はぜる」のICT導入のきっかけや、活用への工夫について、ICTを担当する主幹保育教諭の橋端純恵先生にお話をうかがいました。

     

    ICT導入の出発点は、先生への本音ヒアリング

    ――何をきっかけにICTの導入をなさったのでしょうか

    橋端:9年ほど前に行政との連携をする中で、園の事務担当から「業務の中で最も大変なことは何か」と問われたことがきっかけです。早速、現場の先生方にヒアリングをしてみると皆が口をそろえて言ったのが、「事務作業の多さ」でした。中でもとりわけ「連絡帳を書く作業」にかなりの時間がとられていることがわかりました。例えば1クラス25名ほどの園児の連絡帳を書くのに、ひとりの先生あたり毎日2時間程度かかっていました。

    ―――毎日25名分はかなりの作業量ですね

    橋端:そうですね。保育園の現場にいると、連絡帳書きは当たり前と思いがちですが、子どもたちの降園までに連絡帳を作成するので、勤務時間内は連絡帳作成で手いっぱいになり、それ以外の事務作業は自ずと残業になってしまっていました。早速、事務担当の職員と相談し、連絡帳の中でも「今日はこんなことをしました」の部分は、どのご家庭にも共通のおしらせですから、今日の出来事や様子を一斉に伝えるのにホワイトボードと写真を玄関モニターに投影する方法を試してみることにしました。


    アナログ改善から始めた小さな一歩

     ―――ホワイトボードと玄関モニターの効果はいかがでしたか?

     橋端:連絡帳作成の手間の軽減という意味では効果的でした。しかし、お迎え時間の慌ただしさなどもあり、保護者がモニターやボードを見る余裕がなかったり、保護者がお迎えにいらっしゃらない日などもあったりで、個別の連絡帳に比べると内容が伝わっていないように感じました。ここが次の改善点だなと。 


    手元に届く連絡帳へ――キッズリー(連絡帳アプリ)との出会い

    橋端:なにかよい手はないかと探して見つけたのが「キッズリー(ルクミーの前身のサービス)」でした。「キッズリー(現ルクミー)」の連絡帳機能を使えば、ホワイトボードや玄関モニターに投影していた内容を、保護者の手元のスマホに送信できるとわかり、これを導入したことが園としてははじめてのICTへの取り組みだったと言えます。

    ですので、「さあICTをやるぞ!」と園として掲げたというよりも、日ごろの不便を解消しようとした結果がICT活用だったという順序かと思います。

    ―――サービス導入に抵抗はありませんでしたか?

    橋端:ありました!まず当園は「認定こども園」ですから、年度の途中で新たな予算は使えません。ICTを試すにもまず予算をどうするかという壁がありました。「キッズリー(現ルクミー)」が無料で試せたことで導入に踏み切れたと言えます。

    また、当時はデジタルを好まない職員ももちろんいましたし、今から8年ほど前なので職員も保護者もスマホをもっていないケースもありました。こうしたことも踏まえて、では、まずみんなの意見を聞いてみようということで、今の業務の課題ややりにくさを感じていることなどを先生をはじめ職員みんなで話し合う場を設けることからスタートしました。今、困っていることや大変と感じることがICTの導入で解決できるかどうか、皆で認識を合わせる必要があると感じたからです。

    「クラス日誌」導入で現場に芽生えた実感とは

    橋端:話し合いのうえで、最初に試してみたのは「クラス日誌(保育記録)」を「キッズリー(現ルクミー)」に記録することでした。「クラス日誌」と「連絡帳」とで内容を連動できる仕組みがあり、残業で作成していた「クラス日誌」が連絡帳作成とほぼ同時に保育時間内で仕上がるようになったんですね。使ってみた結果「これは楽だな」と。

    ―――実感が伴ったということでしょうか

    橋端:そうですね。とはいえ、この方法で作成した「クラス日誌」が公的な資料として認められるのかといった課題も当初はありまして、町役場や国への確認を丁寧に行いました。また、職員にも慣れないデジタル作業に不安を抱えている様子も見えたので、操作が目的になってしまわないよう「ICTの上達が目的ではない。ゴールはもっと先で、作業が楽になる・保育の質につながることだ」と、みなで集まって何度も確認し合いました。導入当初を振り返ると、こうした確認や調整が大変ではありました。

    ―――ご苦労もあった中で、職員の皆さまがICT活用に前向きになれたのはなぜだと思われますか

    橋端:どんな職場でも共通しているのではないかと思いますが、デジタルが得意な人っていますよね。得意なかたに最初に触れてもらうんです。好きな人はすぐにマスターしますし、その職員がほかの職員に教えてくれるようになっていきました。とくに若い職員はデジタルに慣れていて、あっという間に使いこなせる人が増えていきました。今振り返ると、導入から軌道に乗ったと感じるまでの期間は、1年ほどだったかなと思います。


    保護者の理解も深まる、写真と動画の力

    ―――デジタル化されたことにより、保護者との関わりに変化など見られたでしょうか

    橋端:文字だけだった連絡帳に写真や動画を添えられるようになり、保護者の保育への理解が深まったように感じています。子供たちの表情や様子が伝わることで誤解も生じにくくなり、おそらくですがクレーム等の軽減にもつながっていたのではないでしょうか。何より、今の保護者は写真や動画の情報にも慣れていらっしゃいますから、文字よりも伝わりやすい・理解いただきやすいのではないかとも思います。

    ―――お子さまとの関わりはいかがですか?

    橋端:まず、職員同士でほかのクラスの様子が見える化されたというのが、大きなポイントですね。たとえば「今、年中さんはこんな制作をしているんだ」等、アプリ内で見えますから、園内で会った子どもに「あの工作、上手にできていたね」とか「歌の練習みたよ、すごいね!」と自然にかける言葉が増えていきました。クラス担任だけではないいろいろな職員との関わりを持つことは、子どもたちのやる気や喜びにつながりますし、子どもたちの見守りにもなります。


    はぜる式ドキュメンテーションの工夫

    ―――「こども園はぜる」様のドキュメンテーションは保護者のかたにとても好評と伺っています。何か作成のコツがあるのでしょうか

    橋端:アプリの利用法や写真の撮り方について、年に数回、園内で研修会を行っています。たとえば写真は、ニコッと笑ったカメラ目線の写真ではなく、活動や成長における「ここぞ」という場面を撮りたいね、と職員同士で話したりします。保育士は保育のプロですから、子供たちを見ていると「あ、次はこんな行動をするのかな」と予想できるケースがあるんです。そんなチャンスに撮影をする、というようなことを心がけています。先日は「初めて歩いた様子」を保護者にお渡しできました。

    もちろん、写真を撮ることが目的ではありませんので、保育の中でできる範囲でとなりますが、せっかく記録して配信するのであれば「どんな写真が適しているか」といったイメージも、なるべく具体的に職員同士で共通認識を持つのがよいと考えています。

    ―――今後のICT活用で目指していることがあれば教えてください

    橋端:認定こども園 はぜるには、「保育園留学」の子どもも多いので、今後は海外の子どもにもICTの活用で連絡等がスムーズになっていくといいなと感じています。

     

    【認定こども園 はぜるが考える、導入のコツ】

    導入成功のカギ:全員参加と“すぐ聞く”文化

     橋端:ICT導入のコツは、全員で話し合いながら全員参加ですすめることと、わからないことは即解決すること。この2点かなと思います。やはり、一方的に「ICTを導入せよ」と言われても、人によっては戸惑ったり気持ちが乗らないことがあると思います。

    保育の現場で、今ある課題をどうやって解決するか、負担を軽減し、保育の質を上げるにはどうしたらよいかと、みなが共通して感じていることを話し合っていく中で、結果としてICTの活用が見えてくれば、多少デジタルが苦手でも「やってみようかな」と感じるのではないでしょうか

    また、機器の操作等でわからないことがあった時、そのままにしてしまうと、だんだん利用が億劫になりますから、すぐに聞くことも大切だと思います。導入当初は研修もしてもらいましたし、今でもそうですが、わからなければ「ルクミー」の担当に都度連絡し、教えてもらうようにしています。

     

    厚沢部町認定こども園はぜる

    • 園児数:69名(内保育園留学 6~10名程度)
    • クラス数:6
    • 保育士:15名
    • ICT導入時期:2017年夏ごろ~順次導入
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