作業時間90%削減!それでも連絡帳は手書き 「町田わかくさ保育園」の保育の質を高めるICT活用

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    多忙を極める保育士の業務効率化は、保育業界全体の喫緊の課題です。東京都町田市に位置する町田わかくさ保育園は、全国に先駆けICT化を推進し、その成果を劇的に示しました。

    管理者の作業時間は1/10、日々書き込みを行う保育士の作業時間も半分に短縮。この短縮された時間は、園が最も大切にする「外遊びで、太陽を感じ、土を感じ、水を感じる」といった、子どもと深く関わる時間に充当されています。

    この先進的な取り組みを牽引するのが、元看護師の経験から医療業界のデジタル化を体感し、「ITを使うのが当たり前の時代が来る」と予見していた熊谷文代理事長(当時園長)です。未来を見据えた明確なビジョンと、職員の苦手意識を「できる」に変える温かいリーダーシップが、園のICT環境を築き上げました。

    しかし、園は全てを効率化したわけではありません。なんと、保護者への連絡帳は「あえて手書き」を継続しているのです。なぜ、効率化のフロンティアである園が、この非効率な作業を残したのか?そこには、ICT化の先に見据える「保育の質」への強いこだわりがありました。
    その秘密を、ここから詳しく紐解きます。

     

    町田わかくさ保育園が早くからICT化を推進されてきた背景には、園長(現理事長)の強い推進力と、未来に対する明確な見通しがありました。多くの園がまだ導入に二の足を踏む中、いち早く補助金制度を活用し、積極的に新しい技術を取り入れてきました。

    インタビューでは、その推進の「きっかけ」について伺いました。

    いろんな補助金が出たりだとか、そういうのがあるともう必ず『やってみましょうよ』っていう感じで声をかけてくるのが、ま、きっかけと言えばきっかけなんですかね」

    自治体からの補助金が出ても、実際に行動に移さない園が多い中、このスピード感には理由がありました。

    「これから先、子供たちは絶対(ITに)携わっていくな、っていうのは思ってたので。(中略)ITを使うのが当たり前の時代が来る、っていうのを考えられていたんですね。でね、お金もいただけるならやってみましょうよ、と」

    保育の質を高めるため、そして未来の社会を生きる子どもたちのために、トップが時代の流れを読み、新しい試みに挑戦するリーダーシップが、現在のICT環境を築き上げた原動力となっています。

     

    職員の理解と定着:苦手意識を乗り越えるための工夫

    ICT化を進める上で、職員のデジタルリテラシーの差は大きな課題となります。町田わかくさ保育園でも、苦手意識を持つ職員がいたそうですが、「できない」を「できる」に変えるための具体的な工夫と支援が行われていました。

    書類作成の時間を確保し、「やむを得ない」状況を作る

    • 特にICT化の初期段階で、指導案などの書類作成を全てシステムで行うことに移行。
    • 「できないじゃ済まなくなる」状況を作り、「書類の作成時間」を設け、その時間は保育から離れて没頭して良いという環境を整備。
    • 「分からない人が、分かる人から教えてもらう」という助け合いの文化を醸成しました。

    外部研修への金銭的支援

    • パソコン教室に行きたい人には「どうぞ」という形で、園として費用を負担し、職員のスキルアップを支援。
    • 「得意な人」が現場にいたことも大きな強みとなり、ICTリーダーを任命するなど、業務分担の中で推進役を明確にしました。

    結果として、園全体に新しいものを取り入れ、挑戦しようという前向きな姿勢が浸透し、「宝の持ち腐れ」にならずに済んでいます。

     

    劇的な変化:ICT化の前後で業務はこう変わった

    導入直後は一時的に業務時間が増えたものの、システムに馴染んでしまえばその効果は絶大でした。導入から約1年で、業務効率は劇的に改善したといいます。

    改善されたポイント変化の内容と効果
    作業時間管理者は1/10程度、日々書き込みを行う保育士も半分に短縮。書類をためなくなり、期限内に作成できるように。
    書類の質と共有字の綺麗さによる差がなくなり、書類の見やすさが向上。職員間で書類の共有が容易になり、お互いの保育計画などを参考にできるように。
    管理業務管理者の押印業務が大幅に効率化。書類の場所も取らなくなり、一覧性が向上。
    時間の活用短縮できた時間は、会議や子どもと関わる時間に充当できるように。

    ただし、作業効率化の反面で、ゼロから全てを考える機会が減るというデメリットも認識されています。これに対し、町田わかくさ保育園では「この保育士さんの多忙さを思えば、業務効率化できてよかった」と結論付けられています。

     

    連絡帳は「あえて手書き」に残す理由

    全ての業務をICT化するのではなく、保護者への連絡帳は「手書き」を継続しています。これは、保護者とのコミュニケーションや信頼関係を築く上で「大事にしたい」部分であり、園の強いこだわりとして残されています。ICT化を進める中でも、「残すべきものと効率化すべきもの」を峻別し、保育の質を追求する園の姿勢が伺えます。

     

    未来への展望:子どもたちのためのICT活用

    医療業界のデジタル化を経験した元看護師の理事長は、「当時の医療業界の転換が、今度は保育業界に来ているんだな」と、業界の未来を見通していました。

    今後のICT化への期待について尋ねると、やはりその中心には「子どもたち」がありました。

    「これから育つ子供たちは、絶対にこういったものなしじゃ育たないわけだから、やっぱり保育士の中にもこういうものをどんどん入れていかなきゃいけないな、っていうのは思います」

    一人一台のタブレットではなくとも、各クラスに電子黒板やタブレットなど、身近にデジタル機器がある環境を普及させることで、「これからを生きる子どもたちが、身近に(デジタルを)感じて良い」と語ります。

    町田わかくさ保育園は、ICT化によって作業効率を改善し、その余裕を「外遊びで、太陽感じて土感じて水感じてっていうことを、ちっちゃい内に体験させてやりたい」という、五感をフル活用した保育の充実に繋げているのです。

     

    現場からの提言:ICT化を全国に普及させるために

    最後に、ICT化をさらに全国の保育現場に浸透させるための「課題感」について提言をいただきました。

    • 金銭的な課題: 東京都在住の園だからこそ、手厚い補助(年間150万円を6年間など)を活用できているが、他自治体の園との格差を是正するため、国による補助金制度の充実が不可欠。
    • 人的な課題(ICT普及員): 職員の中にたまたま詳しい人がいればスムーズに導入できるが、そうでない園のために、「ICT普及員」や「エンジニア」のような専門家を派遣できる仕組みの必要性。

    「宝の持ち腐れにならないようにするためにはどうしたらいいか」という問いへの答えは、やはり「人」と「お金」による継続的な支援でした。

    町田わかくさ保育園の取り組みは、ICT化が単なる「業務負担軽減」に留まらず、「保育の質」を向上させる手段であることを証明しています。子どもたちの未来を見据えたトップの意識と、現場の努力が、先進的な保育を支えています。

     

    町田わかくさ保育園

    • 園児数:167名
    • クラス数:6クラス
    • 保育士:38名
    • ICT導入時期:2017年4月ごろ~順次導入
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