“ICT先進園”はこう作られた ― 認定こども園さくらに学ぶ保育ICT導入成功の秘訣

事例集・取組内容画像

    「次代の日本の子どもを立派に育てる」「働くお母さんの味方になる」という開設理念の「認定こども園さくら」は、2026年に開園48年目を迎える栃木県栃木市のこども園です。全国有数の先進保育園とも言われる「認定こども園さくら」の堀園長と、大橋先生に保育ICT導入成功の秘訣を伺いました。

     

    制度変更が背中を押した、保育ICT導入の第一歩

    ――国内屈指の先進的保育園といわれる「認定こども園さくら」の保育ICTの導入のきっかけから教えてください

    :国の制度が変わりつつあるタイミングで、出席状況をより正確に出す必要が出てきました。そこでまず「FileMaker」というソフトウェアを使ってiPad用の自作の「デジタル出席簿」を作ったことがきっかけとなりました。

    当時、各教室にインターフォンはありましたが、たとえば外遊びの時はインターフォンを利用できません。誰が登園していて、誰が遅刻か欠席なのかといった情報を、都度保育士のところに確認に行くことなく、手元のiPadでわかれば手間が減るだろうと考えました。その後、せっかくWi-FiとiPadがあるならば、さらに活用しようと思うようになり、園内放送なども試すようになりました。

    しばらくし、スマートフォンが普及し始めたので「キッズリー(現ルクミー)」の開発チームとやり取りをスタートしました。やはり保護者や先生がスマートフォンの操作に慣れたことで保育ICTに対する大きな転換点となり、この時期から急激に保育ICTを取り入れていけたと感じています。

    ――とはいえ、現場の先生方には、少なからずデジタルへのハードルもあったと思いますがいかがでしょうか

    大橋:当初は「機器はよくわからない」という保育士もいましたが、今はもうICTなしでは成り立たないほどです。もはや過去のような紙でのやり方に戻ることは想像できません。特に事務の職員からは、毎朝の園児の出席状況や保護者からの連絡内容を、手間なく即座に共有できるようになったことが大きな変化だと言っています。

     

    「現場が回る」ための工夫――オペレーターという役割設計

    ――導入がスムーズだった背景には、なにか工夫があったのでしょうか

    「オペレーター(現場では『事務スタッフ』と呼んでいます)」という役割を配置したことが勝因と感じています。すべての職員が複雑な操作をすべて覚えるのは現実的ではないため、「オペレーター」が操作を覚えることから始めました。保育士は主にデータを見るて、必要な情報を「オペレーター」に伝えればよいのです。

    たとえば「今日は保護者の方にこんなお知らせを出したい」と伝えさえすれば、お知らせの作成と配信は「オペレーター」が行います。こども家庭庁が推奨している「ICT推進コア人材」のような役割と言えるかもしれません。

    大橋:「オペレーター」は高いITスキルを持っているので、専門的な操作のフォローをしてもらっています。フォローの過程で操作や関連情報を教えてもらえるので、結果として保育士のITスキルも上がっていると感じています。現在は、スキルのある「オペレーター」の採用も増やしており導入期よりもさらに充実した体制となっています。

     

    「連絡帳」のデジタル化が生んだ“月4時間”

    ――ICTにより業務は効率化されたでしょうか

    :連絡帳が紙だった時に、家に持ち帰って月末のコメントや出席日数を出席簿に転記するとか、そういった作業にどれくらいの時間がかかっていたかヒアリングをしたところ、平均4時間くらいかかっていたことがわかりました。「連絡帳」に関する持ち帰り作業がなくなったわけですから、デジタル化により先生の持ち帰り作業が月に約4時間削減できたということになります。

     

    先進園が見据える次のフェーズ――保育×AIの可能性

    ――ICTによりこどもたちに変化は見られたでしょうか

    :園内には現在iPadのようなデバイスが100台以上、こどもたちが使用するための専用デバイスも各教室に年齢に応じて1〜3台置いています。こどもたちは写真を撮ったり、検索で調べ物をしたりとデバイスを使っています。私が最も大きな変化だと感じているのは、デバイスが「道具」として保育の中に入ってなじんでいることです。

    ――国内の保育園におけるICT化をけん引なさってきた「認定こども園さくら」からみた、今後のICT・デジタル化における展望をお聞かせください

    :やはりAIが重要な存在になってくると考えています。手が離せないときにも口頭で質問し、よりパーソナルで状況に合わせた回答がAIから得られれば個人のアシスタントとなり得ます。今後は、保育の質を高めるためにもAIの活用は切り離せないのではないでしょうか。

     

    【認定こども園さくらが考える、導入のコツ】

    導入成功のカギ:全員が操作を覚える必要はない!

    :やはり「オペレーター」の役割を担える担当者を置くことではないでしょうか。デジタルに抵抗がなく、柔軟な人に担当してもらうことで、ほかの先生も抵抗なく自然な形でICTが浸透していくと思います。

    また、最初からすべてをデジタル化しようとせず、出席管理や連絡帳など、日々の業務負担が大きい部分から着手すると現場も導入しやすいのではないでしょうか。

     

    栃木市認定こども園さくら

    • 園児数:290名
    • クラス数:14
    • 保育士:50名
    • ICT導入時期:2014年4月ごろ~順次導入
    写真